


米国の情報提供サービス会社「Conducive Technology」が発行する"Flightstats"によると、2009年1月~12月におけるJAL運航便の定時到着率(90.95%)が、世界大手航空会社46社中の第1位であった。定時到着率とは、到着予定時刻に対して遅延時間が15分以内であった航空便数が、総運航便数に占める比率のことである。
航空機の定時到着には、航空機の定時出発が必要だ。航空機の出発に向けて、空港では多岐にわたる地上作業が行われる。予定された作業がすべて終了しないと航空機は出発できない。定時到着率世界第一の背景には、JAL空港地上作業スタッフの懸命な努力がある。
JALインフォテックが開発した「JUPITER」は、JALの「定時性」向上を支援するシステムである。
JAL空港地上作業スタッフは、作業の完了報告を「JUPITER」画面上から行う。その情報は、フライトコーディネーター(※)が眺める「JUPITER」コンソールにリアルタイムで反映され、各地上作業工程の進捗が一目に確認できる。
通信の混雑、ノイズ発生のリスクがある無線連絡よりも、確実なコミュニケーションが可能だ。「JUPITER」の導入は、航空機を定時に出発させるために必要な地上作業管理の円滑化を実現した。
「定時性」とは、「安全性」、「快適性」と共に掲げられる、JALグループの重要な使命のひとつである。航空業務をシステムで支えるJALインフォテックにとっても、その使命は変わらない。JALの定時到着率世界第1位という評価に、「JUPITER」というシステムが貢献できたこと。それは私たちの大きな喜びであった。
※フライトコーディネーターとは :
航空機を定時に出発させるため、旅客、航空機、貨物などに関する出発前業務(グランドハンドリング)を統括する職務のこと

「JUPITER」の正式名称は空港地上工程管理システム(JAL Ultimated Planner for Information of air TERminal)であり、その名の通り、JAL運航便の「定時性」向上を目標に、空港での地上作業工程を効率管理するために開発されたシステムである。
「JUPITER」には大きく分けて2つの役割がある。
ひとつはJAL空港地上作業スタッフとフライトコーディネーターの情報共有やコミュニケーションを確実化、リアルタイム化する役割である。
これまで彼らのコミュニケーションは無線連絡が主であった。ところが、無線が多く使われる日中帯の空港では通信混雑が発生し、適時に適切な連絡が行き届かないケースがあった。これが「JUPITER」導入によって、正確かつ迅速な情報共有が可能となった。
また「JUPITER」はシンプルな操作性と、複雑な情報を分かりやすく見せる画面デザインを備えている。地上作業スタッフは簡易な操作で作業の報告ができるようになり、フライトコーディネーターは必要な情報を一挙に確認できるようになった。
他方は、各地上作業の完了時に登録された実績時間を集計分析し、フライトコーディネーターの作業計画を支援する役割である。「JUPITER」導入前は各作業工程に要する実績時間の正確な把握が難しく、効率化の余地がある作業が選定できなかった。
この"消えていた"とも言えるデータを「JUPITER」が確実に集計、分析することにより、どの作業を、どういった手法で効率化すべきかを定める作業計画の決定に貢献している。

「JUPITER」が活躍する舞台は、JAL空港地上作業スタッフやフライトコーディネーターと同じく、着陸した航空機が駐機場に停止(BLOCK IN)してから、次の目的地に向けて駐機場を出発(BLOCK OUT)するまでの時間である。
このとき空港では、航空機を定時に出発させるため、グランドハンドリングと呼ばれる旅客、航空機、貨物などに関わる出発前作業が行われる。それぞれの作業には計画された完了目標時間があり、地上作業スタッフはこれを守るべく、迅速に作業を行なっていく。
以下は代表的なグランドハンドリング業務である。
・お客様のお見送り、次のお客様のご案内
・航空機内の清掃、機内食の搭載
・客室乗務員、運航乗務員の運航計画確認、セキュリティチェック
・航空機の整備、航空燃料の給油
・お客様手荷物、航空貨物の取り降ろし、搬送、搭載
各地上スタッフは、それぞれの職務に適した端末(デスクトップPC、タブレットPCやPDA端末)を利用して「JUPITER」での情報参照、情報更新を行う。地上作業が行われている間、「JUPITER」へは作業終了の報告や引継事項が記載されたメッセージなどが次々に飛んでくる。
この情報を即時に配信して参照可能とすることで、各地上作業スタッフやフライトコーディネーターは常に最新状況を把握することができ、個々の作業展開や適切な作業指示に繋げることができる。
「JUPITER」は、こうして1便1便のグランドハンドリングに要した作業実績を収集し、その分析データを提供する。それが更なる効率的な作業の計画に活かされることで、未来の1便1便の定時運航を支えている。

当初「JUPITER」は、JAL国内線の出発に関わる空港地上作業工程管理に向けて導入された。トライアル運用は2005年7月に羽田空港で開始され、本格運用は2006年2月に羽田空港で、同年11月に那覇空港で開始された。
2008年4月、成田空港への「JUPITER」導入に伴い、JAL国際線のグランドハンドリング管理もシステムの対象となった。機内食の搭載に代表される国際線ならではの地上作業工程も存在するため、成田空港で利用される「JUPITER」のコンソール画面は、羽田空港、那覇空港で利用されているものとは別のデザインが採用されている。
2010年4月には、これまで各空港で独立展開していた「JUPITER」の基盤インフラを統合。保守作業が容易となっただけでなく、セキュリティ対策の強化にも繋がった。
「JUPITER」の地上作業工程管理の対象は、JAL便だけではない。JALグループが他の航空会社からグランドハンドリングを委託されている場合、JALグループの地上作業スタッフは「JUPITER」を用いて作業を行うケースがある。
成田空港で利用されている「JUPITER」のコンソール画面には、JAL以外の航空便名も並ぶ。もはや「JUPITER」活躍の舞台はJALグループに留まらないのである。

JALインフォテックの運航・乗員システム部は、「JUPITER」を含め、JAL運航便の安全性と定時性を支えるシステムと、運航乗務員や客室乗務員の人事情報、スケジュール管理システムの開発、保守を担当している。
運航・乗員システム部が管理するシステムの中心には、「JALFOS」と呼ばれる、JAL便の運航に関わる情報を総合的に管理する巨大なシステムが存在する。「JUPITER」は、「JALFOS」から運航便のスケジュール情報、貨物、乗員情報、お客様の搭乗数など、工程作業管理に必要な情報を受信する。日々、「JALFOS」の開発、保守を担当しているエンジニアに「JUPITER」への思いを聞いた。
「『JUPITER』は現在、羽田空港、那覇空港、成田空港に展開していますが、もっともっと多くの空港に展開したい!そうすれば、よりJALの定時性向上にも繋がりますから」
彼らは、JALの「安全性」と「定時性」の向上に寄与する運航システムを担当していることに、やりがいや誇りと感じているという。「JUPITER」に関わる彼らにとって、JALの定時到着率世界第1位という評価は、これ以上ない喜びであり、達成感であった。
JALの定時性向上を支えるシステムは「JUPITER」だけではない。彼らから「JUPITER」に拡張機能を提供するシステム(サブシステム)「MARS」の紹介を受けた。「MARS」は、「JUPITER」と同様に定時性確保と向上を目的とするシステムだが、その対象は空港オペレーションの難敵、"雪"である。
「MARS」は空港内に展開している除雪車の位置を把握し、滑走路の除雪状況を「JUPITER」に送信する。「MARS」の導入により、イレギュラーな天候下での地上作業対応力の強化が期待されている。彼らには、JALの定時運航に関わるシステム貢献をもっと多角的に実現したい、という熱い思いがある。「JUPITER」や「MARS」に次ぐ定時性向上支援システムのアイデアがあるという。
「JAL地上作業スタッフの皆さんの作業負担がもっと軽減できるように。彼らの仕事をシステムで支援し続けていきたいです」
空港地上作業スタッフの負担を軽減し、更なる定時性向上を支援するシステムの将来は、彼らの運航システムに対する熱い思いから発展を遂げていく。

「初めて『JUPITER』をJALの皆さんにお披露目したとき、『空港業務の革命だ!』と評価を頂いたんですよ」
「JUPITER」のサービスインに携わり、長年、運航システムの発展を見続けてきたベテランエンジニアは、当時の達成感をこう振り返った。しかし、すべてが順調に進んだわけではなかった。
2005年7月の羽田空港では、翌年の「JUPITER」本格運用開始に向けてのトライアル運用を開始するため、着々と準備作業が始められていた。ところが、いざトライアル運用を開始しようとした時、地上作業スタッフが操作する端末の設定に不具合が見つかったのだった。
「空港を何時間もかけて走り回りました。すべての端末を再設定する必要があって…」
航空機が次々と駐機する日中帯の対応は大変だった。しかし、実際に地上作業スタッフの職場を目の当たりにして、本格運用に向けた「JUPITER」の安定稼動を固く心に誓ったという。
彼は今、もし、夜間離着陸禁止時間帯(カフュー)が日本の空港で解除されたとしたら、もっとも地上作業スタッフに与える影響が少ない「JUPITER」のメンテナンス方法は何か、その構想に知恵を絞っている。
現在、「JUPITER」のシステムアップグレードやメンテナンスは、最終便が出発してから始発便の業務開始までの間に実施できる。しかし24時間、JAL便の離発着がある場合は、そうはいかない。彼は「JUPITER」の将来を見据えている。
「私が担当したシステムが人を幸せにできたら嬉しいですね。作業の負担をシステムが軽減することで、JALのスタッフの皆様が幸せになってほしい」
彼は更にこう続ける。
「作業の軽減によって生まれたパワーがサービス向上に注がれて、航空機を利用してくださるお客様が幸せになってくれたら…。言うことないですね」
JAL便をご利用になるお客様とシステム担当者が直接交流できる場は少ない。しかし、彼は"JALというお客様"と、"JALのお客様"の存在をしっかりと見捉え、システム品質向上への原動力としている。
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